最近めざましく進歩している僧帽弁形成術について概略しました

3. 僧帽弁形成術について

 弁膜症の外科治療の中に、僧帽弁形成術と呼ばれる手技があります。これは文字通り僧帽弁を形成する手術です。つまり弁置換術と異なり、自己の弁を残し、それを切ったり貼ったり縫い合わせたりすることによって逆流や狭窄を治す手技です。この手技が可能な病態は限られますが、もしこれが出来るとなると、この上なく患者にとってのメリットとなります。もちろんうまくいくことが前提ですが、手術の効果が弁置換術と同等であり、かつ人工弁に関係する合併症の心配がないからです。
 ただし人工物をまったく使わない訳ではなく、人工弁輪や、人工腱索異種心膜パッチなどを使うことがあります。
 
 さて、形成術の主な適応疾患は、僧帽弁閉鎖不全を引き起こす僧帽弁逸脱症です。僧帽弁が閉じる時に弁の一部が左房側に飛び出してしまい(逸脱)、そこから逆流が生じてしまうというものです。症状は他の弁膜症と同様、息切れ、呼吸苦、むくみ、胸部圧迫感などの心不全症状が起きてきます。また聴診器で心雑音が聞かれます。また、逸脱症以外にも虚血性僧帽弁閉鎖不全症など、狭窄を伴わない閉鎖不全はすべて対象となり得ます。

 最終的な診断は心臓超音波検査(心エコー)で行い、形成術が可能かどうか判断されます。さらに詳しく診断するために、経食道エコーといって内視鏡型のエコーを口から入れて食道側から(つまり裏側から)心臓を観察します。こうして手術の前にかなり細かく形成方法を計画しておくのが一般的で、またこれが手術の成否につながります

 形成術での特徴を挙げてみます。

 まず、通常の弁置換術に比べ、時に長時間の手術となります。また、どうしても計画通りに形成が進まないときや、形成しても逆流が残る時は人工弁置換術に切り替えざるを得ないこともあります。また、術直後から術後数ヶ月、あるいは数年してから逆流が再発することがあり、こまやかな経過観察が必要です。同時に、長期にわたり逆流を再発させない手術手技を行うことが要となります。

 この手術は患者に「人工弁を体内に持つ」というリスクを背負わせないため、僧帽弁逸脱症であれば症状が軽度な若い人に対しても積極的に行われています。

 また、最近になり胸骨正中切開を行わずに、右の胸を小さく切開し僧房弁形成術を行う「低侵襲手術(MICS=ミックス)」が開発され、日本でも一部の施設で導入されつつあります。