■心臓移植について


 薬物治療やいかなる外科的治療でも手に負えない、重症心不全の患者さんには心臓移植手術が必要となります。まず、その歴史を振り返ってみます。

 1967年12月3日、南アフリカのバーナード医師が世界で初となる心臓移植手術を行いました。「先を越された」と思ったのか、その3日後にカントロヴィッツ医師がニューヨークで、そして1ヶ月後にはシャムウェイ医師が米国スタンフォード大学で心臓移植を行っています。

 そして1968年8月8日、日本で初の心臓移植が行われました。詳細は省略しますが、この手術に関して様々な疑惑や論議が巻き起こり、その後日本での心臓移植は頓挫しました。

 1990年代に入り、心臓移植再開への動きが徐々に活発化します。この頃既に世界各国で行われている心臓移植を、医療先進国であるはずの日本で行うことが出来ないのは理不尽だとの声が高まったのです。ただし、他分野では生体臓器移植が成功している中、心臓移植を行うためにどうしても免れないのが、「人の死」に関する国民のコンセンサスと法的整備でした。

 こうして1997年7月、関係学会の働きかけと国会議員の努力の甲斐あり、「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が制定されました。

 1999年2月、大阪大学で約30年ぶりとなる心臓移植が行われました。その後10年間で64人の方が手術を受けられ、そのうち2009年6月の時点で62人の方が生存しているという、極めて良好な成績を本邦では達成しています(世界水準は10年生存率50%といわれています)。

 しかし、一方で心臓移植の症例数が世界水準に比べはるかに少なく、その原因は臓器提供に関する制約が厳しいからではないか、との指摘があり、また現行の法律では小児がドナーとなることが不可能で、小児への心臓移植の道が閉ざされていることから、法改正に向け2006年頃より一部の国会議員が動き始めました。

 さまざまな紆余曲折、改正案が提出されましたが、結局2009年6月に改正「A案」が衆議院を通過、そして2009年7月には参議院本会議で可決成立しました。この改正法は公布から1年後の2010年7月から施行されることになります。

 この「A案」の骨子はこうです。

 「年齢を問わず、脳死を一律に人の死とし本人の書面による意思表示の義務づけをやめて、本人の拒否がない限り家族の同意で提供できるようにする」というものです。

 妥当な内容かと思います。

 その後約1ヶ月余りの間に、少なくとも3人の脳死になられた方々が、家族の同意で(本人の口頭による意思はあったようですが)臓器を提供されたとのことです。

 さて、とはいってもドナー(臓器提供者)の方がいつ現れるかは不確実で、多くの重症心不全の患者さんが心臓移植を待機しています。そのうちの大半の方に必要になってくるのが(補助) 人工心臓です。現に64人の心臓移植を受けられた患者さんのうち54人が補助人工心臓を装着していたと報告されています。(心臓移植レジストリー報告 2009.10)

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