3. ステントグラフト内挿術について

 90年代初頭、大動脈瘤を「切らずに治す」方法が開発されました。これは足の付け根の動脈から細い管を入れ、その中をステントグラフトと呼ばれる折り畳まれた特殊な人工血管を通して動脈瘤の部位で広げる治療です。欧米の一部の施設で臨床に用いられており、日本にも導入され、さまざまなバリエーションで行われています。

 この治療法にはいくつか問題点があります。最大の問題は、ステントグラフトが通常の人工血管と本質的に異なることです。現在通常の人工血管は、改良の積み重ねの結果、その品質と安全性には確固としたものがあります。海外には商業ベースで製品化されたステントグラフトもありますが、現在日本での使用は認められていません。よって胸部に使用されているものはすべて手製です(医者や技術者が独自に作っている)。長期成績も明らかではありません。ただ、手技そのものは健康保険で認められていて、医療政策として中途半端な対応となっています。

 別の問題点は、この治療を行える動脈瘤のタイプが限られていることです。腹部大動脈瘤と胸部下行大動脈瘤の一部がそれに該当します。したがって、腹部に関しては大動脈瘤の項で述べたように、お腹を切る通常の手術成績がかなり良好なこと、また胸部でもステントグラフトが可能な症例は手術も比較的容易なことが多く、この方法が好ましい症例は限られてきます。あるとしたら、肺の機能が悪い高齢の患者さん再手術で外側から剥離するのが難しい患者さんなどが対象になります。

 ただし、心臓血管外科に限らず、外科系全般的な傾向として「なるべく切らない」「侵襲が少ない」手術の開発が進んでいる状況を考えると、今後ステントグラフトの出番は当然増えてくると思われます。いずれにせよ製品としての更なる改良と、日本における材料の保険適応が待たれるところです。