■震災関連情報


 放射性物質の人体への影響についての情報です。
※日経メディカルオンラインより(公益性が高いと判断し全文転載しました)

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2011. 3. 29
国立がん研究センターが放射線影響について緊急記者会見
100mSv未満の線量なら発がんリスクなし

国立がん研究センター(理事長:嘉山孝正氏)は3月28日、緊急記者会見を開き、
福島第一原子力発電所の被災による現時点での放射性物質汚染の健康影響について、
チェルノブイリ事故や広島・長崎の原爆生存者の追跡調査などのエビデンスから、
「原子炉付近で作業を行っている人を除けばほとんど問題がない」とする見解を発表した。

1986年に旧ソ連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所で起きた事故は歴史上最悪の原発事故であり、 大量の放射性物質が環境中に放出された。
その後、周辺地域(現在のベラルーシ共和国、ウクライナおよびロシア連邦)やヨーロッパの各地で健康影響調査が行われた。
その最新結果は、
「原子放射線の影響に関する国連科学委員会
(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation;UNSCEAR)」
の2008年報告書にまとめられている。

同センター中央病院放射線科治療科長の伊丹純氏は、
「UNSCEARは放射線防護に関して最も権威ある組織である」として、
その報告書で明らかになった放射線被曝に起因する健康障害を次のように総括した。

(1)急性放射線症候群は134人の原子炉スタッフおよび緊急対処従事者のみに起き、
うち3カ月以内に死亡したのは28人。彼らは4000〜6000mSvの線量を浴びた。
その後20年間にさらに15人が死亡したが、その死因は放射線被曝とは無関係
(Sv[シーベルト]とは人体への影響を評価するための被曝線量の単位で、
1人が年間に受ける自然被曝量は世界平均で約2.4mSvとされている)。

(2)これら緊急対処者以外に数十万人が原子炉の閉じ込め作戦に関与したが、
より高い線量(1000mSv以上)を被曝した群において白血病と白内障の罹患率が上昇することが示唆されているが、それ以外の人々には放射線被曝に起因する健康障害は見られていない。

(3)被曝時に青少年期(0〜18歳)だった人たちに6000人を超える甲状腺癌(分化型)が発生し、
2005年時点で15人(0.3%未満)が死亡した。
その原因の多くは放射性ヨウ素に汚染されたミルク・乳製品の摂取によるもので、
しかもその排泄剤のヨウ化カリウムが配布されなかったことによる。
当時のソ連邦が事故後に迅速な対応を取らなかったために一般公衆の甲状腺被曝が非常に大きくなった
(甲状腺はホルモンをつくるためにヨウ素を必要としており、放射性ヨウ素を体内に取り込むと甲状腺に集中する。ただし放射性ヨウ素の半減期は8日と短い)。

この25年に及ぶ追跡研究の結果から、伊丹氏は
「青少年期の放射性ヨウ素への暴露と、大線量を浴びた緊急作業者の健康障害を除けば、
大部分の労働者と周辺地域およびヨーロッパ諸国の一般公衆においては、健康問題を恐れる必要は全くない。
彼らは、自然放射線と同様またはたかだかその数倍の低線量
(0.3mSv[ベラルーシ、ロシア、ウクライナの住民]〜30mSv[避難民])
の放射線に暴露されたにとどまる。
生活はチェルノブイリ事故により障害されたが、
放射線学的立場からは個々人の健康問題に対する展望は明るいものである」と述べた。

また、同センター研究所所長代理の中釜斉氏は、
「外部被曝による甲状腺癌リスクについて15歳以上の大人ではほとんどリスクが増加せず、
15歳以下の小児においても100mSv以下であれば有意なリスク上昇は認められない」とした。

一方、がん対策情報センターがん情報・統計部長の祖父江友孝氏は、
日本の原爆被災者約10万人の追跡調査結果から、
「100〜200mSv以下の低線量域では、広島・長崎の原爆被爆者においても明らかな発がんリスクの増加は確認されていない」と強調した。

放射線を被曝した場合の健康影響としては、
急性影響と慢性影響があり、慢性影響の主たるものが発がんリスクの増加。
広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査では、被爆後2〜3年でまず白血病が増加し始め、
5〜10年でピークに達し、その後時間の経過とともに低くなっていく。
固形癌は被爆後10年目くらいから増加が始まるという。

広島・長崎の原爆被爆者では200mSv以上の被曝線量で、
線量の増加と発がんリスクの増加が直線的比例関係になり、
成人が1000mSvを一度に被曝すると、全固形癌の発癌リスクは1.6倍増加する。
これは非喫煙者と比べた場合の喫煙者のリスクの増加とほぼ同程度であり、
「現時点で住民の方が受けたと考えられる被曝による影響は、
それよりはるかに低い値になると予測される」(祖父江氏)としている。

ただし、100mSv以下の線量では発がんリスクとの比例関係は認められなくなる。
また、広島・長崎の原爆被曝は瞬時の被爆であり、放射線暴露が長期にわたる場合、
同じ累積線量による発がん影響は少なくなるという。

中央病院放射線科診断科長の荒井保明氏は、食品・水への放射線影響に言及。
最近都内の浄水場で検出された放射性ヨウ素(最高測定値210Bq/kg)を線量換算すると、
約216リットルを飲んで1mSv、0.31Bq/kgなら約169トンを飲んで1mSvになるにすぎない。
関東の農作物で測定された放射性ヨウ素(4300Bq/kg)も、約10kg食べて1mSvに相当する程度だという。
また農作物に付着した放射性ヨウ素は水洗いで減る上、半減期が8日なので時間経過とともに減少するとした。


荒井氏は、「これまでに検出された放射線レベルで見る限り、
都内の食品・水を摂取して健康被害が生じる可能性は、乳幼児を除けばない。
今後も正しい情報に基づいて科学的に判断し、落ち着いて対処することが大切だ」と述べた。

最後に同センター理事長の嘉山孝正氏は、
現在、暫定的に定められている飲食物の摂取制限の指標については十分すぎるほど安全なレベルである。
放射性物質に汚染されたと考えられる飲食物については、
放射性物質の半減期を考えれば、保存の方法を工夫すれば十分に利用可能である。
今後、放射線量については定点でかつ定期的に測定し、
放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの放射性物質の種類も定期的に発表するなど
正確な情報を経時的に提供することで、
国民が安全であることを理解し、安心が得られると考えられる
」との見解を示した。

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