■冠動脈バイパス手術■
1. 狭心症、心筋梗塞について

 1. 狭心症、心筋梗塞について  病態 / 治療方法

■病態

 「狭心症」とか「心筋梗塞」とかいう病名は、多くの方が耳にしたことがあると思います。ご自分や、 あるいは身内の方がそういった病気にかかられたり、医師から診断され詳しくなられた方も多いことでしょう。

 さて、ご存じない方々のために解説します(まずは心臓のしくみと働きを読んでおいて下さい)。心臓は血液を体に送り出すために、拡張(ひろがること)と収縮(ちぢむこと)を繰り返しています。それを担っているのが心臓の壁を構成している筋肉、つまり「心筋」なのです。最終的に全身に血液を送り出すのが左室で、この左室に多くの筋肉がついています。全身どこの筋肉もそうですが、心筋も活動するためには酸素が必要です。酸素は血液によって運ばれます。この、心筋に血液を運ぶ血管が冠動脈です。

冠動脈は大動脈の根本から出て、冠(かんむり)のように心臓を覆っています(左図)。

 さて狭心症とは、主に動脈硬化が原因でこの冠動脈が狭くなり心筋が酸素不足になり、胸が苦しくなったり痛くなったりする病気のことです。

 さらに冠動脈が完全に詰まって、その先の心筋が壊死(わかりやすく言えば腐ってしまうことです)を起こしてしまうと心筋梗塞という病気になります(下図)。

 また、狭心症がひどくなり、じっとしていても薬を飲んでも痛みが治まらない状態を「不安定狭心症」と分類したり、今にも冠動脈が詰まりそうな状態を「切迫心筋梗塞」と呼んだりします。これらの病気、つまり心筋への血液供給が足りないことを原因とする病気をすべてまとめて「虚血性心疾患」と呼びます。

 一般的に冠動脈は左右それぞれ1本あり、左は大きく2本に分かれています。左の前の方へ流れる血管を左前下行枝、後ろの方へ行く血管を左回旋枝、右側の血管を右冠動脈と呼びます(上図)。

 このように冠動脈は大きく3本あり、このうち左前下行枝が最も大切な血管です。また左側の分かれる手前は左主幹部と呼ばれ、とても大事な部位になります。虚血性心疾患において、具体的にどの血管(冠動脈)がどれだけ狭くなっているかを確かめるには冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)を行わなければなりません(始めへ)。

 

■治療

 さて、こうしてどの冠動脈がどれだけ悪いかがわかったら治療方法が選択されます。治療には、薬物療法カテーテル療法手術の3つがあります。

 薬物療法とは内服薬による治療です。カテーテル療法とは、局所麻酔で手や足の血管から心臓の冠動脈まで管を入れて、狭くなっている部分を風船のようなもので膨らませたり、金属の筒で広げたりする治療です。手術とは冠動脈バイパス手術のことです。どの治療方法にするかは、病気の程度と検査の結果を中心として、年齢、体力、他の病気の有無、ライフスタイルなどから総合的に判断されます。ここでは概略を述べておきます。

 冠動脈3本のうち1本が悪かった場合(これを1枝病変といいます)は薬物療法かカテーテル療法になります。2本以上が悪かった場合(これを多枝病変といいます)は議論の分かれるところです。ステント登場後(「カテーテル治療」参照)のアメリカでの1万人以上を対象とした論文では、多枝病変の場合カテーテル療法と手術においてあまり予後に差はなく、薬物は悪かったという結果でした。ただし左主幹部(前述参照)に病変がある場合は手術の方がよいとのことでした。

 大雑把な結論ですが、一般的には多枝でも2枝はどちらかというとカテーテル、3枝はどちらかというと手術でしょうか。日本は、様々な理由からカテーテル治療が大変さかんで、手術が選択される比率が欧米に比べ低い傾向にあります。

 最近、Drug-eluting stent(ドラッグ・イルーティング・ステント)という新たなステントが開発され、今後治療法の変遷が起こる可能性はあります。

 以上は病変の本数だけによる判断です。繰り返しますが患者さんの年齢、全身状態、ライフスタイルなども、重要な判断材料になるでしょう。